序章
サンタクロースはクリスマスに子供が喜ぶプレゼントをクリスマスツリーの下にそっと置いていく。そのおおらかで優しい存在は、子供たちに大変好かれやすい。サンタの人気の秘密は何だろうと考えると、すてきなプレゼントだけでなく、もしかしたらその外見に何かが隠されているのかもしれない、と考えた。ここで、注目したいのは、サンタの「あたたかみ」だ。サンタは、そのふっくらした体格、心を和ませる笑顔で、子供に親しまれる。しかし、もしサンタにそれらの要素がなかったら、子供たちは、サンタのことをどう思うだろうか。仮に来年から、細見できびきびした人がサンタということになったら、多くの子供の夢が一度に消えてしまうかもしれない。太っていると「あたたかみ」があるのか、さまざまな事例を参考にして検証していきたい。
本論
The Nightmare Before Christmas(1993)という映画作品は、ご存知だろうか。この作品では、ハロウィンタウンからやってきたジャックがクリスマスタウンに迷い込み、本物のサンタを捕まえて自分が代わりにサンタの服を着て、骸骨のトナカイが引っ張るそりーに乗り、クリスマスの夜空を駆け巡って子供たちに恐ろしいプレゼントを配る。子供たちは怖がってしまい、街は大騒ぎになり、ジャックのハロウィン風クリスマスは大失敗となる。
この作品には、サンタが太っていなかったら、子供たちの大好きなクリスマスはどうなってしまうのか、という本論文の疑問に対するヒントが含まれていると思う。ジャックは、基本的に性格はいいが、やはり外見では、真っ黒な穴の目、折れてしまいそうなぐらい細長い体格に、誰もが怖い印象を受ける。細いサンタジャックが、クリスマスをまるで悪夢のようにしてしまった原因は、悪いプレゼントのこともあっただろうが、何よりもサンタ自身が別人だったことが子供たちに恐怖を与えたのではないだろうか。
細いキャラクターが、好感度を増すために都市が過ぎるごとにだんだん太っていく事例がある。人気キャラクターのドラえもんの絵が、1980年から2000年までの20年間でどう変化したかを比較する。細かいところでは、目の大きさが昔の方が小さく、顔の目から顎までの白い部分の面積が広かったことが分かるだろう。だが、ここで一番注目していただきたいのが体格である。よく見ると、昔のドラえもんはウエストが細く、今のドラえもんに比べれば、だいぶひょろひょろした体格である。ちなみに、今のドラえもんは、身長、バスト、ウエスト、ヒップが、全て129.3cmで、体重も129.3kg、パワーは129.3馬力らしい。昔のドラえもんは、そんなに太っていないし、結構か弱そうに見える。では、なぜこのように、ドラえもんは、太くて丈夫な体つきへと変化してきたのだろうか。のびたと長年付き合ってきて、いつも頼りにされているから、身も心もだんだんしっかりしてきた、という説も立てられるが、ドラえもんが太っていることにより、子供の人気を集めていると考えてみるのも面白い。ドラえもんは、やはりその太くて短い体格で狸のような顔をした水色のロボットであるというところが、なんといってもかわいくて、現在に至って、多くの子供たちに愛され続けているのではないかと思う。
サンタの起源は、4世紀に実在したニコラスという司教で、人の知らないうちに貧しい人への贈り物をしたことで多くの人に慕われ、後に聖人として聖ニコラス(Saint Nicholas)と呼ばれた。やがてカトリック教会により聖ニコラスとクリスマスのお祝いが結びついた。聖ニコラスを最も崇敬していたのは、オランダ人だった。オランダ語では、聖ニコラスをSinterkllasとつづり、「シンタ―・クラアス」と発音した。17世紀初頭にオランダ人入植者がニューアムステルダム(今のニューヨーク)に辿り着き、そこにシンタ―クラアスの伝統を持ち込んだ。このシンタ―クラアスを、英語的に発音すると、「サンタ・クロース」(Santa Claus)となり、国境を越えた存在として生まれ変わったので、サンタクロースはアメリカから誕生したと言ってもよいそうだ。また、ここで聖ニコラスの痩せていて厳しく背筋の伸びた謹厳な面影はなくなり、猫背で丸々と肥えた容器なイメージが生まれた。さらに19世紀にはいると、サンタクロースは夢物語に仕立てられ、トナカイのそりに乗って来て、煙突から入ってくるといったイメージもつけられた。
制ニコラスと今のサンタクロースは親切な場面では共通しているが、外見は全く違うようだ。聖ニコラスのような痩せていて思いやりのある人が、どうして今の容器でふっくらしたサンタへとイメージが変わってきたのだろうか。これは、ドラえもんの体格が少しずつ変化したのと同じ現象なのかもしれない。
ここで、人間が「太っている」ことに対して受ける心理学的な印象を自分なりに考察してみた。サンタが太っていると何が良いのかというと、まず1つは、脂肪があるために、寒い雪の中でも、全然平気そうで、凍えている人々にぬくもりを与えることである。逆に細いサンタだと、非常に寒い外で各家を回ってプレゼントを配るという重労働に耐えるのが大変そうだ。2つ目は、太っているということは、ダイエットなどをしている形跡が全くないので、サンタは、外見ばかりにとらわれていなく、それよりも人々の誠実な行動や良心の方に着目していることを表す。また、毎年クリスマスの時、私たちの身近な存在になって幸せをもたらすことで、気楽に人生を歩み、他の人の笑顔を見てうれしがるような人が世の中にいてもいいではないか、と呼びかけているかのように思える。
実は、世界には、太くて背が小柄なサンタもいれば、太くて大きいサンタや美しく装飾されたサンタなどもいて、各地で様々なサンタ像が作られている。しかし、細見のサンタはめったに見かけない。
結論
骸骨が良いサンタにはなれなかったこと、痩せている聖ニコラスから太っているサンタが誕生したこと、サンタが寒さに耐えるために脂肪が必要であり、サンタの体形は子供たちに愛されやすいことを総合して考えると、「あたたかみ」とは、すべての悲しみや心の貧しさを包み込んで、多くの人に安らぎを与える力のことだと思う。そして、サンタがその「あたたかみ」を持つために、サンタが「太っている」というイメージが重要な役割を果たしていると思う。もちろん、太っていても性格が悪い人もいるし、痩せていてもおおらかで優しい人もいる。しかし、本研究を通して分かるように、太っているとぬくもりがあるという固定観念が、人々に、特に子供たちにあるようだ。したがって、古くから伝わるクリスマスの伝統であるサンタには、子供たちにこれからも夢を与え続けるような、太っていて、優しそうで、楽しそうな人物像が最適だと思う。
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