作家レモンのホームページ

ホーム 小説エッセイEnglish

エッセイ


医師不足と女性医師支援

[抄録]

 近年、医学部女子学生や女性医師の割合は増えているが、出産・育児などを契機に離職した女性医師の職場復帰は円滑に進んでいない。女性医師固有のストレスとして、最も多いのが仕事と私生活や家庭の間での葛藤であり、女性医師は結婚においても子育てにおいても男性医師に比べて不利な立場にある。女性医師に対する支援がなぜ必要かというと、結婚や子育てにおいて女性医師が男性医師に比べ不利な立場にあること、医師不足や少子化の問題を改善する必要があること、女性としての特性を医療に活かせることが理由として挙げられる。具体的な女性医師支援体制として、自治医科大学や慶應義塾大学における短時間勤務、東京女子医科大学の女性医師再教育センターの活動、保育園に子供を預けやすくするための環境整備などを例に挙げた。また、医師として男性、女性両方の特性を持つこと(androgyny)が理想的であることから、女性医師の職場環境を整えることにより、医師不足の問題を解決するだけでなく、医療の質を向上させることも期待できる。

 

[背景]

 国内の医学部女子学生の比率は3割を超え(1)、女性医師の占める割合も年々増加しており、2007年では全体で2割弱、20代では3割を超えている(2)。また、1994年のWPHS (The Women Physicians’ Health Study) の調査によると、30-70歳の女性医師の約70%が子供を持ち、子供の平均人数は1.6人であった(3)。しかし、女性医師の休職、離婚率は男性医師に比べて高いことが知られており(4)、出産・育児などを契機に離職した女性医師の職場復帰は円滑に進んでいない。復職を阻む要因として、治療手技再開への不安、最新の医学知識獲得への不安、家事・育児が大きいと考えられている。本研究では、女性医師の抱える様々な問題について検討し、その対策・改善策を講じることが目的である。

 

[方法]

 文献を調べたり、東京女子医科大学の衛生学公衆衛生学()教室の先生にインタビューを行ったりした。

 

[結果]

 女性医師の抱える問題として特に挙げられるのは、女性医師固有のストレスであり、その中で最も頻度が多いのは、仕事と私生活(家庭)の間での葛藤である。女性が仕事をもつときに、いまだに仕事か家庭かを選択せざるを得ない状況や社会通念が日本にはあり、迷いを生じている若い女性医師は多いと思われる(5)。以下、女性医師が結婚、子育てにおいて不利である点を述べていく。

 

 まず日本の統計にれば、女性医師の70%は同業の医師と結婚し、男性医師である配偶者は、父親、夫としての意識が希薄なことが多い(6)

 次に、アメリカの統計によると、女性医師は男性医師に比べて子供を持たない傾向にあるようだ。1988年の調査に応じた南カリフォルニアの女性医師のうち73%、男性医師のうち90%には子供がいた。また、配偶者が外で働いている医師の割合は、男性医師45%に対し、女性医師93%であった。女性医師の方が男性医師よりも子育てに時間を費やしている。実際、女性医師は平均週24.4時間を子供の世話に費やしており、一日当たり30分を調理に、30分をその他の家事に費やしている。さらに、女性医師の婚姻率は75%11%が結婚経験はあるが今は独身、そして、14%が未婚であり、男性医師(89%が既婚)に比べて既婚者が少ないが、離婚率は女性医師の方が高く、男性医師28%に対して女性医師37%となっている。

 これらのことから、女性医師は結婚においても子育てにおいても男性医師に比べて不利な立場にあることがわかる。

 

[考察]

 具体的な解決策を講じる前に、女性医師に対する支援がなぜ必要かというと、大きく四つの理由があると考えられる。一つは女性医師が結婚においても子育てにおいても現在は男性医師に比べ、不利な立場にあるため、このような男女差をなくし、男女平等な雇用体系を作るために支援が必要であるといえる。二つ目は医師不足の問題を解決するためである。厚生労働省の2006年の資料によると、医師不足数は六万人以上とされている。そこで、女性医師の子育てなどを契機とした離職に対する復職を支援することによって、医師の絶対数が増えることも期待できる。三つ目は少子化の問題を解決するためである。2009年の辞典での日本の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数)1.37であり、2006年の1.26に比べれば上昇しているものの、1973年の2.14に比べればはるかに減少している。これに対し、国際連合は標準的な人口置換水準を2.1と推定している(7)。このため、日本において少子化は深刻な問題であり、女性医師が子供を持つことで少子化が改善することもわずかながら期待できると考える。四つ目は女性医師が女性としての特性を医療に活かすためである。女性には面倒見の良い側面があり、これが医療の質を向上させ、また男女が協同して働ける環境作りの実現にもつながると考えられる。

 具体的な支援の方法として考えられるのは、第一に短時間勤務があり、多くの施設においてこの制度が整えられている。例えば自治医科大学では、短時間勤務(20時間)を子を養育する医師の勤務の特別措置として実施している。当初小学校就学前の子を持つ医師を対象としていたが、その後小学校低学年の子を持つ医師に対象を拡大した。同様に慶應義塾大学助教に関する内規において、小学生以下の子を持つ医師を対象とし、勤務時間を10時から16時として、給与は週1日なら月額18,000円、週2日なら月額36,000円とし、勤務日数に応じた給与となっている。

 やむを得ず仕事を中断する場合、二つ目の支援の方法として、女性医師の円滑な復職を支援するプログラムがある。東京女子医科大学の女性医再教育センターは平成1811月に設立され、その活動には四つのコンセプトがある。一つは復職先そのものを紹介するのではなく復職前の再研修先を紹介すること、二つ目が同大学卒業生のみでなく他大学の卒業生をも対象とすること、三つ目は研究カリキュラムをオーダーメイドとすること、四つ目は研修費用をとらないことである。同大学衛生学公衆衛生学()教室の先生にインタビューをしたところ、オーダーメイドの研修について特に強調されており、たとえば研修医中に結婚をした人や専門医になってから結婚した人など、人それぞれのニーズに合わせた研修を用意しているとおっしゃっていた。

 それ以外の方法として、男性にも育児休暇をとらせて育児に積極的に参加してもらうことや、現行の産休制度を改善すること、保育園の数を増やし質を向上すること、ベビーシッターやホームヘルパーなどを利用することが挙げられる。

 女性は一般に成功することに対して自身が持てない傾向にあるが、男性、女性両方の特性を持っていること(androgyny)が医師にとって最良であるといわれる。

 このため、女性医師が仕事を継続でき、結婚・出産のために一度離職したとしても再研修し、育児による過剰な負荷を受けない制度を整えれば、医師不足の問題を解決するだけでなく、医療の質を向上させることもできると思う。そのため、女性医師にとって柔軟で働きやすい環境を作り、継続して支援していくことが重要であると考えられる。

 

参考文献

1 奈良信雄。女性医師復職支援プログラム。東京医科歯科大学。

2 村瀬大作。女性医師の休職・離職の原因は出産と育児以外にも。学会ダイジェスト:第71回日本循環器学会総会・学術集会。2007

3 Women In Medicine。 片井みゆき訳。櫻井晃洋監修。じほう 2006; 14, 19, 50, 65, 81, 200, 204, 207

4 中井章人。産婦人科女性医師支援のための情報サイト開設にあたって。女性医師支援情報サイト。2009

5 大畑秀穂。女性医師復職における女性医師再教育センターの意義。医学のあゆみ 2010; 1179-1183

6 大畑秀穂。自治医科大学女性医師支援プログラムの実績と今後の展望。医学のあゆみ 2010; 1250-1255

7 Wikipedia。少子化。2010


戻る

Copyright ©2020 Author Lemon All Rights Reserved.